前回は、スティーブ・ジョブズの「助けを求める力」についてお話ししました。その“根っこ”にある考え方として、私が長く大切にしているのが、舘岡康雄先生の提唱された「SHIEN学(支援学)」です。中でも、私がとりわけ惹かれているのが、「してもらう能力」という言葉です。
「してあげる」はよくても、「してもらう」は苦手
私たちは子どもの頃から、「人の役に立ちなさい」「してあげなさい」とは教わってきました。けれど、「上手にしてもらいなさい」とは、あまり教わってこなかったように思います。
だからでしょうか。多くの人が、人に何かを“してもらう”ことに、どこか後ろめたさや、申し訳なさを感じてしまう。「迷惑をかけてはいけない」と、つい一人で抱え込んでしまうのです。
SHIEN学が生まれた、ある現場
SHIEN学は、静岡大学大学院教授の舘岡康雄先生が体系化された理論です。そのきっかけは、1990年代初め、巨額の負債を抱えていた日産自動車の現場にあったといいます。
それぞれの分野の専門家が、自分の部署の問題“だけ”を解こうとするのではなく、他部署との“重なり”を生みながら、互いの課題を解きほぐしていった。その積み重ねが、数年での黒字化へとつながっていったそうです。
「させる・させられる」という管理の関係から、「してあげる・してもらう」という支援し合う関係へ。このパラダイムの転換を理論にまとめたものが、SHIEN学なのです(ご著書『世界を変えるSHIEN学 力を引き出し合う働きかた』)。
「してもらう能力」が、循環を生む
ここで鍵になるのが、「してもらう能力」です。
誰かに気持ちよく“してもらえる”人は、実は相手に対して、その人が力を発揮する「機会」を創り出しているのだと、私は感じています。
「してもらう」とは、ただ助けられることではありません。相手が持っている天分——その人本来の持ち味や、まだ眠っている力——を引き出す“機会”を、そっと差し出すことでもあるのです。「あなたに頼みたい」「あなたの力を貸してほしい」。その一言が、相手の天分にスイッチを入れ、活躍の舞台を用意します。
前回ご紹介した、ジョブズがコーニング社のCEOに宛てた手紙——「あなたなしでは成し遂げられなかった」——も、まさにこれだと思うのです。頼られたことが、その人の力を引き出す機会になる。してあげた人が、してもらった人の言葉によって輝く。利他と利他が循環し、互いの天分を引き出し合う関係が生まれていきます。
「組織の空気」と、してもらう能力
一人で抱え込む組織は、強そうに見えて、実はもろい。反対に、「してもらっていいんだ」という安心感のある組織は、自然と助け合いが循環し、しなやかに強くなっていきます。
これはまさに、私がいつも申し上げている「お互い様」であり、「組織の空気」であり、「喜びの中で生産性が上がる組織」そのものだと感じています。
まず、自分から「してもらう」
立派に“してあげよう”と気負う前に、まずは小さく、「助けてもらう」「教えてもらう」。
その素直さが、まわりの人の力を引き出し、めぐりめぐって、自分もまた誰かの力になれる。「してもらう」とは、決して受け身なことではなく、関係を温かく循環させる、能動的な力なのだと思います。
結びに
「してあげる」やさしさと、「してもらう」素直さ。その両方が回り始めたとき、組織の空気は、静かに、確かに変わっていきます。
さて——あなたは最近、誰かに気持ちよく「してもらう」ことが、できているでしょうか。
—— コンサルタントエージェント 代表 廣川智彦
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