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1000年かけないと、つくれないものがある——AI時代に、組織の「空気」が資産になる理由

1000年かけないと、つくれないものがある——AI時代に、組織の「空気」が資産になる理由

先日、YouTubeの「TOLAND VLOG」というチャンネルの動画に、すっかり見入ってしまいました。神話や古代史を、驚くほど深く、そして愉快に掘り下げていくことで知られるチャンネルです。今回拝見したのは『【最後の希望】日本の分岐点は〝今〟です』という一本でした。

テーマは「AIが何でもできるようになった世界で、それでも残る価値は何か」。てっきり最新のテクノロジーの話が続くのだろうと思って観ていたら、話はいきなり7万年前まで遡っていきました。そこから産業革命を経て、また現在に戻ってくる。一周して戻ってきたときに残っていた答えが、あまりに自分の仕事と重なっていて、正直、うなってしまったのです。

今日はその動画から受け取ったことを、私なりに企業の現場へ引き寄せて書いてみたいと思います。

1万円札の原価は、20円だそうです

いきなり妙な話から始まります。

1万円札を作るのにかかる費用は、正式には公表されていないものの、おおよそ20円と言われているそうです。私たちはその20円の紙を、1万円分の労働と交換している。冷静に考えると、意味が分かりません。

けれども、これこそが人類最強の発明だったという話でした。

歴史学者のハラリが『サピエンス全史』で書いた、「実際には存在しないものを想像し、信じる力」。約7万年前、人類はこの力を手に入れました。見たこともない神を信じ、同じ物語を信じる仲間と結束できるようになった。だから見ず知らずの他人同士が協力できるようになり、やがて貨幣が生まれ、国家が生まれ、法律が生まれていった。

貨幣も、国家も、会社も、「みんながあると信じているから成り立っている」。逆に言えば、大多数が信じなくなった瞬間に、ただの紙切れに戻ってしまう。

ただし、ここが大事なところで——フィクションは、嘘ではありません。 みんなが信じることで、それは本当になっている。実際、20円の紙は今日も1万円分の価値として働いています。

つまり、価値はモノそのものにあるのではなく、人間の意識が生み出している、ということです。

これ、私たちが「心と意識のメカニズム」としてお伝えしてきたことと、まったく同じことを言っています。

「便利になったのに、幸せは増えなかった」という宿題

動画はそこから、人類は本当に豊かになったのかを検証していきます。

「1日働いて買える小麦の量」という記録が、大昔から残っているそうです。紀元前1800年のバビロニアで約7kg。1500年後の古代アテネで約11kg。ところが、産業革命が始まった1800年のイギリスでは、約6kg。3600年かけて、庶民の稼ぎはむしろ減っている。

その間に人類は、文字を生み、帝国を築き、火薬も羅針盤も印刷も発明したのに、です。

流れが変わったのは産業革命から。石炭は土地の広さに関係なく、掘れば掘るほど出てくる。ここで人類は歴史上はじめて「奪わずに増やす」という選択肢を手に入れました。そこから世界のGDPは直近60年だけで約60倍、平均寿命は20歳台から70歳代、極度の貧困は36%から8%へ。

数字の上では、まぎれもない大成功です。

ところが——日本人の生活満足度は、収入が何倍にもなったこの60年間、ほぼ横ばいのまま。

お金は増えた。寿命も延びた。なのに、幸福だけが増えなかった。

理由も、身も蓋もないくらいはっきりしていました。「足りない」という感情は、満たしても消えず、別の場所へ引っ越すのだそうです。

モノが足りない時代は、冷蔵庫が届いた日が家族の記念日になるくらい嬉しかった。ところがモノが行き渡った瞬間、幸せのものさしは「いい学校」「いい会社」「夢のマイホーム」へ移っていく。そしてその本質は、「欲しい」ではなく「他人より上でいたい、せめて人並みでいたい」という比較の欲求に変わっていた。

比較には、ゴールがありません。学年1位になっても世界には上がいて、年収が倍になっても周りにはもっともらっている人がいる。しかも今はSNSで全人類と比べられる時代です。

1978年に宝くじの高額当選者を追跡した有名な研究では、当選から数ヶ月で幸福度がほぼ当選前の水準に戻っていたそうです。人間には「快楽順応」という、なかなかえげつない性質が備わっている。

ここ、組織の話に置き換えると、けっこう深刻です。給与や役職や制度をどれだけ整えても、社員のやりがいが「比較」の土俵に乗っているかぎり、満たされる日は来ない、ということですから。

音楽業界が、もう答え合わせを終えていた

では、AIが何でも作れるようになった世界で、何が価値として残るのか。

動画が挙げていたのは、音楽業界の例でした。

サブスクの登場で、録音された音楽はほぼ無料になりました。地球上のほとんどの曲が、月に千円ほどで聴き放題。多くのアーティストが「音楽の価値が消える」と考え、その予想は半分だけ当たりました。

この10年でCD市場は約半分に縮小。曲はタダ同然で、無限に聞き流される消費物になりました。

ところが、同じ10年でライブ市場は約3倍に拡大しています。 2025年には8,564億円と、3年連続で過去最高を更新。

音楽の価値は、消えたのではなく、真っ二つに割れたのです。

複製が無料になるほど、人の意識は「複製できないもの」へ流れる。

そして「複製できない体験」の条件は、科学的にはこの3つだと解剖されていました。

①二度と起きない。②誰かと共有する。③特別な何かが起きていると心で感じる。

……これを読んだとき、私は完全に自分の仕事のことだと思いました。

研修という仕事は、まさに「複製できない」側にある

私たちは20年以上、企業の研修とコンサルティングの現場に立ち会ってきました。

内容だけを取り出せば、正直、AIのほうが早く、安く、きれいにまとめてくれます。資料も、演習も、まとめの言葉も。実際、私自身、日々の業務でAIに大いに助けてもらっています。

けれども、研修の現場で本当に価値が生まれているのは、資料の中身ではありません。

いつも黙っている中堅社員が、はじめて自分の言葉で本音を言ったとき。上司が「そんなふうに思っていたのか」と初めて気づいて、部屋の温度がすっと変わるとき。あの瞬間です。

あれは、二度と起きません。その日、その顔ぶれ、その順番でしか成立しない。同じ資料で同じ講師が翌週やっても、まったく別のものになります。そして参加者が「今、何かが起きた」と心で感じているから、価値になっている。

まさに、二度と起きない・誰かと共有する・心で感じるの3条件そのものなのです。

私たちがずっと「組織の空気が変わる瞬間」と呼んできたもの。あれは、原理的に複製できないものだった。だからAIがどれだけ進化しても、価値が下がるどころか、むしろ相対的に上がっていく——そう考えると、少し勇気が出ます。

「何を作るか」より、「何を残すか」

TOLAND VLOGの動画の中で、いちばん胸に残った言葉を紹介させてください。

 「AIは"1000年っぽいもの"を1秒で作れる。しかし"本当に1000年続いたもの"は、実際に1000年かけないと作れない」

この差だけは、どんな技術でも埋まらない、と。

そして、一度失われたものは二度と元に戻せない、という性質を「不可逆性」と呼んでいました。守り継いできた火は、私たちが忘れた瞬間に消える。消えたら、後の時代の人がどれだけお金と技術をかけても、二度と灯せない。

だからこれからは、「何を作るか」と同じくらい、いや、それ以上に「何を残すか」が問われる。AIは新しいものをいくらでも生み出せますが、受け継いだものを残すことだけは、今を生きる人間にしかできない、と。

企業でも、まったく同じことが起きていないでしょうか。

創業者が大事にしてきた、あの一言。誰かが困っていたら自然に手が出る、あの職場の当たり前。数字には一行も出てこないけれど、確かにその会社を成り立たせてきたもの。

それは、いま在籍している人が覚えているあいだしか残りません。 引き継ぎ資料には書けないし、マニュアル化した瞬間に別のものになってしまう。ベテランが定年でいなくなり、若手が「そういえば昔そんなこと言ってましたね」で終わってしまったら、そこで火は消えます。そして、二度と灯せない。

組織活性化の仕事とは、結局のところ、この火を絶やさないための仕事なのかもしれない、と思うのです。新しい制度を足すことより、すでにその会社の中で燃えていた火を見つけて、もう一度みんなで囲みなおすこと。

「足りない」の矢印は、外から内へ向きを変える

最後に、動画が示していた結論を。

モノでも比較でも満たされなかった「足りない」の矢印は、これからどこへ向かうのか。現代心理学で最も支持されている理論の一つ「自己決定理論」が、すでに答えを出しているそうです。

人間が本当の意味で満たされるのは、この3つが揃ったとき。

①自分で選ぶこと。②成長を感じること。③人と繋がること。

モノでも、お金でも、比較でもなく、全部、自分の内側に答えがあった。

私たちが「①自分の心と意識の整理・掃除 → ②自ら気づき、本来の自分(天分)で輝く → ③お互い様の意識を育てる → ④その上で活かすビジネススキル」という順番を大事にしてきたのも、まさにここでした。個々の能力発揮も、EQの育成も、この順番でしか本当には根づかない。

外側の便利さは、これからAIがどんどんタダにしていきます。だからこそ、内側の整い方が、そのまま組織の力になる時代が来る。私たちが「喜びの中で生産性が上がる組織」と言い続けてきたことに、時代のほうがあとから追いついてきた——そんな感覚さえあります。

動画はこう結ばれていました。

 「AIの果ての世界で最後に残る価値は、遠いどこかにあるものではなく、僕たちのすぐ足元にある」

まずは近所の神社や、家に伝わる昔話から目を向けてみてください、と。

会社に置き換えるなら、こうでしょうか。

来週の会議で、いちばん古株の方に聞いてみる。「うちが昔から、これだけは大事にしてきたなって思うことって、何ですか」と。

あなたの会社には、1000年かけないとつくれないものが、何か残っていますか。

—— コンサルタントエージェント 代表 廣川智彦

出典・謝辞

本記事は、YouTubeチャンネル「TOLAND VLOG」の動画『【最後の希望】日本の分岐点は〝今〟です』(https://youtu.be/gapefKsISvI )を拝見し、そこで受け取ったことを、私なりに企業の現場へ引き寄せて綴ったものです。記事中の数値・研究名・調査名は、いずれも同動画の中で紹介されていたものです。

人類7万年の歩みから「価値とは何か」を解き明かし、最後に私たちの足元へ返してくださる構成に、深く感じ入りました。素晴らしい問いをいただきましたことに、心より感謝申し上げます。

私のこの記事は、受け取ったことのごく一部にすぎません。サムさんとマサキさんの掛け合いのテンポも、話が7万年前へ飛んでいくときのワクワク感も、文章では到底お伝えできませんでした。ぜひ、動画そのものをご覧ください。

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