先日、石丸弘さんの講演を聴かせていただきました。
「ギフトに生きる」という生き方を、十八年間、実験のように続けてこられた方です。コーチング、マーケティング、組織コンサルティング、時には恋愛相談まで。プロジェクトでいえば「0から0.2くらいまで」——いちばん形の見えない立ち上がりの時期を担うのが得意だとおっしゃっていました。
そして何より、ご自身のことをこう表現されていたのが印象的でした。
僕が居るだけで、平和的。
口癖が「有難い」。
お会いすると、本当にその通りの方でした。以下、私が受け取ったものを、四つだけ記させていただきます。
一.「断らない断り方」
石丸さんは基本的に、「来た事、頼まれ事」に応じていく生き方をされています。ご自分から売り込むのではなく、来たものを受け取る。
ですが、すべてを受けられるわけではありません。そこで編み出されたのが、「断らない断り方」でした。
この人と、どんな無理のない範囲でならできるか。
それを提示して、相手に選んでもらう。
私たちは普段、依頼を「受ける/断る」の二択で考えています。受ければ消耗し、断れば関係が薄くなる。どちらを選んでも何かを失う構造です。
石丸さんは、その二択そのものを降りておられました。「ここまでならできます。どうされますか」と、選択権ごと相手にお渡しする。関係を切らずに、自分も守る。
さらに、こうもおっしゃいました。
以前はヘロヘロになるまで引き受けていた。
だから今は、意識的に水曜日を休みにしている。
「意識的に」という言葉が、私には決定的でした。余白が自然にできたのではなく、余白を設計として置いておられる。
石丸さんは「自己犠牲をしない世界観」という言い方をされていました。優しい人ほど疲れてしまう——私が組織の現場でもっとも多く出会う痛みが、まさにこれです。その答えが、心がけではなく設計にあった。十八年続いた理由が、ここにあるのだと思いました。
二.仕事も、そもそもギフト
もっとも視界が開けたのが、この話でした。
ギブアンドテイクの世界は、相殺している感覚。
でも、ギフトアンドギフトは違う。
Give & Take は、差し引きゼロを目指す運動です。貸し借りを清算してフェアに戻す。健全ではありますが、何も積み上がりません。Gift & Gift は清算しないので、積み上がっていきます。
そして石丸さんは、寄付をいただくことだけがギフトではない、日々の仕事そのものがすでにギフトになり得るとおっしゃいました。
構造だけを見れば、働くということはきわめてシンプルな贈り合いです。こちらはお金をいただけるほどの能力を差し出し、相手はそのお金を差し出してくださっている。そこに相互の感謝さえあれば、それはもう立派なGift & Gift なのだ、と。
ところが、なぜか私たちはそれをGive & Take として受け取ってしまう。「これだけやったのだから、これだけもらって当然」——同じ行為が、まったく違う世界の出来事になってしまいます。
つまりGift & Gift とは、特別な活動ではなく、いま目の前にある仕事の捉え方なのでした。制度も事業も変えずに、認識のフレームひとつで、同じ職場が別の場所になり得る。組織開発を生業とする者として、これほど励まされる視点はありませんでした。
面白いのは、石丸さんご自身、見返りを求めずに関わり続けた結果として「石丸さんと一緒に仕事がしたい」というお声が集まってきたそうです。順番が逆なのです。先に感謝があり、後から交換が成立している。
三.「あなたは、そうなんですね」
正しいか正しくないかの対立に対して、石丸さんはこう受け取られるそうです。
それぞれの正義があるな、と。
「あなたは、そうなんですね」
そして、こんな一言も。
戦争反対の、戦争。
痛烈でした。正しさを掲げて戦うと、正しさの形をした暴力になる。平和を標榜しながら眉間に皺が寄っているなら、それはもう平和ではない、ということだと受け取りました。
組織の対話の場でも、まったく同じことが起きます。「心理的安全性が大事だ」と正しさで押した瞬間に、押された側の安全性が損なわれる。
「あなたはそうなんですね」は、相手に同意することではありません。判定を降りるということ。これ以上ないほど実践的な一言をいただきました。
四.「に」の一文字
石丸さんは当初、この生き方を「ギフトで生きる」と呼んでおられたそうです。それが半年ほどして違和感になり、「ギフトに生きる」に変えられた、と。
「で」は手段です。ギフトを使って生きる。
「に」は在り処です。ギフトの中に生きている。
たった一文字ですが、やり方と在り方を分ける決定的な一文字だと感じました。帝王学を教えておられる先生から「あなたは自然に帝王学に生きている」と言われたというお話も伺いましたが、まさにそういうことなのだと思います。
そして、いちばん心に残ったのがこの言葉でした。
炊き込みご飯も、ひじきの惣菜も、キノコも、カニカマも。
包丁を使わずに作って、手抜きでお渡しするのもギフト。
ギフトとは、立派なものを差し出すことではない。頑張って捻り出すことでもない。無理のない範囲で差し出されたものが、無理がないからこそ続き、続くから巡る。
「鍋ひとつ、お米一粒も」「一歩一歩も感謝」——大きな話をされているようでいて、入り口が徹底して小さいところに、この方の凄みがあると感じました。
おわりに
私は普段、二宮尊徳の報徳思想を組織開発の土台として位置づけられないかと考え続けております。報徳には分度——まず自分の枠を定め、そのうえで余剰を譲る——という考え方があります。無制限の善意は一度で燃え尽きる。分度のある善意は百年続く、という設計思想です。
石丸さんは「分度」という言葉は一度もお使いになりませんでした。けれども、水曜日は確実に休日にする余白と「断らない断り方」は、まさにそれではないかと思うのです。言葉が違うだけで、東洋の知恵は同じ場所を指しているのかもしれません。
最後に、石丸さんが目指しておられる世界を伺いました。
今の社会の戦争が、いつか歴史の教科書で
「そんな時代もあったよね」と言われる世の中になってほしい。
お互いに「有難い」と思える関係が、地球上にたくさん生まれてほしい。
当社は「意図と温もりが巡る組織」を理念に掲げております。今回、その理念に確かな補助線をいただきました。温もりは、湧かせるものではなく、枯れない形に整えるものである——そう受け取っております。
石丸弘さん、温かい学びをいただき、心より感謝申し上げます。有難うございました。
ちなみに、石丸弘さんのご著書「ギフトに生きる」は
下記より、お買い求めできますので、もし宜しければぜひ
お読みくださいませ!!(*^-^*)
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