先日、コーチングの国際団体ICFの講演で、榎本英剛先生のお話を聴く機会がありました。日本にコーチングを広めた第一人者であり、私がかねてより深く敬意を抱いている方です。その語りの中心にあったのが、「内なる声」という言葉でした。
胆石の発作が、連れてきた声
榎本先生は、あるとき激しい胆石の発作に襲われ、まさに七転八倒されたそうです。静養を兼ねて乗り込んだ、3か月かけて世界を巡る船の上で——ふいに、自分でも驚くような声が、内側から聞こえてきたといいます。「今こそ、次に進む時だ」と。
理屈ではありません。けれど先生は、その声に従って、人生の節目を何度も越えてこられた。前職を辞めたときも、その声を信じた。そして、そのたびに人生は良い方へ開けていった——そう静かに語っておられました。
内なる声は、たいてい“非常識”である
特に印象的だったのは、先生が「内なる声は、非常識で非合理なことが多い」と、はっきり言い切られたことでした。
だから厄介なのだ、と。常識や損得で考えれば「ありえない」選択に見える。まわりも、たいてい賛成しません。けれど後から振り返ると、それこそが自分を本当の場所へ運んでくれていた——。
私たちは、つい「合理的な正解」を探します。でも本当の自分の声は、その合理の枠の“外”から、そっと届くのかもしれません。
なぜ、その声は聞こえにくいのか
では、なぜ内なる声は、こんなにも聞こえにくいのでしょう。
先生の答えに、はっとしました。「自分でも、なぜそう考えたのかが分からない——それは多くの場合、これまで身につけてきた規範や考え方だからだ」。
つまり私たちの頭の中は、育つ過程で受け取ってきた「こうすべき」「こうあるべき」で、びっしりと埋まっている。その分厚い層の下に、本当の自分の声は埋もれてしまう。だからコーチングとは、相手の内に潜む、本人でさえ気づいていない声を、そっと引き出す営みなのだ——と先生は言います。
「何をするか」より、「どう捉えるか」
榎本先生が長く探究してこられた「天職創造」という言葉も、心に残りました。
天職とは、「どんな仕事を選ぶか」の話ではない。「自分は、仕事をどう捉えているか」の話だ、と。
仕事にエネルギーを“奪われる”のか、それとも仕事から“得られる”のか。同じ仕事でも、そのまなざし一つで、見える世界はまるで変わってきます。これはきっと、役職や業種を問わず、働くすべての人に通じる問いだと感じました。
結びに
本当の自分にアクセスするとは、特別な誰かだけの話ではありません。
日々の忙しさや、「こうあるべき」という声に押し流されそうになりながら、それでもふと立ち止まって、内側の小さな声に耳を澄ます。その静かな習慣の先に、「本来の自分(天分)」で生きる道が、少しずつ見えてくるのだと思います。
さて——あなたが最近、理屈では説明できないのに「なんとなく、こっちだ」と感じた瞬間は、ありましたか。その声は、何と言っていたでしょうか。
—— コンサルタントエージェント 代表 廣川智彦
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